• 98年6月14日(日)続き(1)

    二人組に「じゃあ、ちょっと行って来るから待ってて」と言って中に入るとやはり殺伐とした空気が充満している。
    が、予想以上に人は少ない。狭いロビーには長机が置いてあり、その奥には旅行会社の社員らしき人が暗い顔をしてずらりと並んで客に言い訳をしていた。壁にはこのチケットの事件を掲載した日本の新聞の切り抜きが貼り付けてある。
    階段の所には頭を垂れて座り込んでいる者も居る。
    少なからずの人が旅行会社の人を問い詰めている。
    半ば逆切れしている旅行会社の人も居るが殆どの人は泣きそうな顔で謝っている。此処に並んでいる旅行会社の人達も貧乏くじを引いたものだなと少なからず同情さえしてしまいそうな情景である。
    もう大体の事情は想像がついたが取り敢えず確認だけはしておかねばなるまい。近くの社員を捕まえて・・・そんな怯えんでも別に捕って喰いやしないんだから、と思いつつも「チケットは無いんですか?本当にどうにもならないんですか?」とだけ聞き、事態の確認だけをしてその場を離れた。問い詰めたところで事態が好転するとは考えられない以上はこれ以上こんな所に居ても仕方が無いだろう。連れの所に戻り事情の説明をする。

    少し歩くとダフ屋が声を掛けてきた。当然のように値段を聞くと彼は携帯電話の液晶に数字を打ち込み我々に見せる。
    1・2・0・0・・・
    1200フラン?これなら買いだと思った次の瞬間彼はもう一つ0を加えた。12000フランだと?日本円にすると約30万円だ
    そんな金ある訳が無い。あまりの法外な値段に交渉の余地さえ無い。

    暫くするとライター氏と合流した。彼もチケットは無かったと言う。
    まだ時間もあるので軽く食事をしようという話になりレストランに入った。それぞれサンドイッチとコーヒーを食べながら状況を話し合っているとアコーディオンを抱えた親父が近くに寄って来て勝手に演奏して帽子を差し出す。これに金を入れろという事らしい。
    こちとら心にそんなゆとりは無い。
    適当に無視すると勘定を済ませ店を出た。
    とにかく会場に行って状況を見ようと言うことで話はまとまった。
    駅前に戻り近くのホテルで荷物を預かってくれないかとフロントと話すと何とただで預かってくれると言う。3人はここに荷物を預けてスタジアムに行く地下鉄の駅に向かう。
    ライター氏は今夜泊まるホテルに既に荷物は預けてある。途中一人の女性と一緒に行くことになる。彼女もチケットは持っていないようだ。


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