• 6月15日(月)続き(2)

    イングランドの応援団の歌声はとにかく低くてドスが利いている。ちょっと怖いぐらいだ。
    試合が始まるとイングランドに注目していたベッカムが居ない。
    その為だろうか中盤に創造性とかそういった物が皆無である。
    前線に向かってロングボールを蹴っているだけでガツガツとした体力任せの旧態依然とした、いわゆるイングランドスタイルに戻ってしまっている。
    チュニジアも組織といった物が殆ど無い。それぞれが勝手にやっている。まあ、アラブ系らしいテクニックは見せるのだがいかんせん単発である。
    結局シアラーのゴール等でイングランドが2−0で勝ったがこれまで観た中で最も魅力に乏しい試合であった。

    が、この日のハイライトは試合後であった。
    隣のチュニジアサポーター席からペットボトルが投げ込まれる。私の周りのイングランドサポーターが応戦する。
    私の両隣に居た観客が試合終了を待たずに帰途についたのはこの事態を予想してのことなのだろうか?
    スタジアムでは例のドスの利いた声で歌われるイギリス国歌がスタジアムを包んでいる。
    朝から何も食っていないので腹も減って早いトコ食事(ブイヤベース)にありつきたかったし、土産も買っておきたかったので早々に席を立った。何よりも面倒に巻き込まれたくなかったのだ。だからその後スタジアムで何があったかは分からない。殴り合いの一つや二つはあったのだろう。

    スタジアムから目的のレストランのある港に向けて歩いているとヤケになったチュニジア人が地面にビール瓶を叩きつけている。荒っぽいのはイングランド人だけではないようだ。
    カフェの前を通った時だ、私のすぐ横で破壊音が聞こえた。
    真っ赤な顔をしてぶっ飛んだ目をした男がテラスのイスを叩き壊し投げつけている。蜘蛛の子を散らすように人々が逃げる。無論私も一緒だ。写真を撮りたい衝動に駆られるがそんな事で刺激し、暴力のターゲットになるのはご免だ。
    とにかく関わりたくない。とっととブイヤベースを食べて駅に避難しようと思い当てずっぽうに近道と思われる路地に入った。・・・やはり迷った。さんざん迷って港近くの通りに出た時、彼等は路上の自動車をひっくり返していた。
    野次馬は遠巻きに観ている。そんな光景を横目に私はとにかくレストランを探した。そして辿り着いたその店はシャッターが閉まっていた。ちょっとした破壊の跡がある。
    向かいのビルのショーケースのガラスは見事に叩き割られている。
    そういえば此処に来るまでの道中やけにシャッターを下ろしている店が多かった。

    まあ、駅までの道中どっかは開いてるだろう。そこでブイヤベースを食うんだと気を取り直して駅に向かうと機動隊が道路封鎖をしている。そしてその先ではフーリガンと機動隊がにらみ合いをしている。実に面白そうだ。
    が、今は空腹が先に立つ。ちょっと表通りを歩くとどうも表通りのレストランは全滅臭い。仕方なく裏通りに入る。
    やっと見つけた店は地元の人がたむろって居る。
    テレビでサッカー中継を見ている。私も仲間に入れて貰おうと店内に入って従業員と話すとこの店では食い物は
    無いと言う。何と言うことだ折角見つけた店が・・・
    いや、正確に言えば開いている店はあった。
    が、真っ赤になったイングランドサポーターのたむろする店に入って行く勇気は私には無い。
    それにそれらの店にはブイヤベースはおろかせいぜいサンドイッチ位しか無さそうだったから・・・
    まあ、この時はのども渇いていたので取り敢えずビールを一杯貰った。
    こちらにはジュースの自販機とか殆ど無いのでこういった店に入るしかないのだ。


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