6月11日(木)
昨夜はたっぷり寝たので目覚めは良い。
今日は初めてW杯の試合を生で見る予定だ。
イタリアvsチリの試合はボージョワール・スタジアムで夕方
(と言ってもまだまだ真昼の明るさ)5:30から始まるため
時間はまだっぷりある。
簡単な朝食を食ってホテルを出ようとすると以外と寒い、部屋に
戻って一枚余計に着ることにする。
たまたま日本が梅雨に入った為一枚余計に着てきたのが
結果として幸いした。
着る物を着たのでボルドーの街を俳諧に出掛けよう。
地図を見て中心街に出てちょっとほっとした、何だちゃんと
大きな街ではないか。昨日駅に着いた時は立派な駅舎(別に
日本みたいにでかい駅ビルがある訳では無いが)の割には
駅前の商店街はしょぼいなーと思っていたのだが
中心街は駅からかなり離れている上に昨日ボルドーに着いた
時は既に殆どの商店は閉まっている時間だったようだ。
ボルドーの中心街では何と言ってもチリのサポーターが目に
付く。ユニフォームを着て徒党を組んで「チチチ・レレレ・
ビバ・チレ!」と気勢を上げている。ツアーバスも見掛ける。
何処の国も一緒なのだろう。
イタリアのサポーターも見掛けるがその数は少なく大人しい。
サポーター同士が路上で出会うとお互いにヤジを飛ばし合う
のだが以外に殺伐とした物は無く、肩を組んで一緒に写真を
撮ったり歌を歌ったりとかなり友好的だ。
どちらのサポーターも私が声を掛けると愛想良く答えてくれて
なかなか楽しい物だ。公園ではチリの観光局(?)のブースが
あり、そこではソンブレロみたいな帽子を被りマントを
羽織ったいかにもと言った感じの親父が正体は良く分からない
が果肉入っていて意外と強くて甘い酒をタダで飲ませてくれた。
また流れていた現地の音楽も私好みでなかなかいい感じだった
夕方からの試合では下馬評も低い事だしチリを応援
してやろうかな。
今日も10〜15分土砂降りになり、その後青空が見える
という事を何度も繰り返す変な天気だ。
この季節、この地方は天気が良いと言う話だったが全然違う
じゃないか。
カフェの店先でお茶をしていた女の子雨が降り出すと店内
から大きな傘を借りてきてさり気なくさしたりするところは
ちょっと格好良かったりする。
紐で括った傘を背中に背負ったおじさんとか居て、それは
それでなかなか様になっていたりするのだ。
私は雨が降り出すと慌てて雨宿りするだけなんですけどね。
そんな感じで雨宿りの為に入った店の一つにVIRGIN MEGA
STOREがあったのですが、店内の雰囲気はさすがに日本の
それと殆ど一緒でしたね世界中一緒なのかなあ?
少なくともマクドナルドは一緒だったしなあ。
さすがにラインナップには多少の違いはあるようでしたがね。
中央広場に行くとオフィシャルのボランティアと思われる若者に
声を掛けられる。彼等の話によると今日はW杯の試合がある為
市内のバスは全部タダだと言ってスタジアムまでのバスの
乗り換えとかを教えてくれ、ついでに市内観光のパンフレットと
バスの路線図をくれた。
彼等は男女の二人組だったが女の子の方は胸に英語、男の
子の方は英語とスペイン語と書かれた札を付けていた。
おそらく喋れる言葉の事だろう。すごいなあ。
やや、スタジアム行きのバスに乗るために迷ったが何とか
試合開始2時間前には会場に着いた。丁度その時は土砂降りで
オフィシャルの現地事務所のあるビルの前で雨宿りをしていた。
すると隣には東洋人が、日本人かと思って話し掛けてみると
何と香港人だという。やはり彼もチケットは持っておらず
ダフ屋から買うという、雨が上がると別れてしまったが彼は
ちゃんと試合を観れたのだろうか。
「I need TICKET」と大きく書かれた紙を持った人が何人も
うろついている。その割に売っているダフ屋らしき人はなかなか
見当たらない。見掛けるのは強面のセキュリティばかりだ。私に
声を掛けてくるのはチリのユニフォームを着た人ばかりで
「チケットは余っていないか」といったものばかりであった。
そんな状況に私も慌ててしまった。もしかして結構ヤバイ
のでは・・・と。そんな時どちらからともなく声を掛けた最初の
ダフ屋からチケットを買ってしまった。2,000フランと
言っていたのを1,700フランに値切って買った。
ちょっと高いかなとも思ったが席も悪くなかったし、
観れ無いよりマシかとの思いもあったので良しとしよう。
その後見掛けたダフ屋に値段を聞いても同じ様な値段だった。
スタジアムの前では日本人のカップルがチケットを
ゲット出来ずに途方に暮れていたが・・・
スタジアムの入り口は異様なまでに渋滞していた。自分が入場
する段になって初めて分かったのだが一人一人を強面の治安
部隊の隊員が念入りにボディチェックをしているのだ。
予想はしていたが私は日本国内の試合のボディチェックでの
経験からたかを括り、キーホルダー代わりのナイフを持って
いたのだが甘かった。一応隠してはいたのだがあっさり
見つかってしまい問答無用で没収されてしまった。取り敢えず
鍵だけは返して貰ったのだが最近買ったばかりのナイフは
一ヶ月足らずで私の手元から無くなってしまった。私が迂闊
だったと言わねばなるまい。安物だったのがせめてもの救いか。
その試合は前菜と呼ぶには余りに魅力的なカードだった。
実際競技場のシートに座るまでは前評判に劣るものの
サポーターのテンションでは圧倒していたチリに心惹かれて
いた。
が、隣の席にに座った10代後半と思われる金髪の女の子は
可愛く、連れの女性も美人だった。更に隣には頭のちょっと
薄くなった中年男性が、そうやら家族のようだ。よく見ると
年上の女性はぱっと見より年はいってそうだ。女の子の母親
のようだ。でも若く見えるなあ。
話し掛けようと思っていたら向こうからイタリア語で話し
掛けてきた。私が英語しか分からないと言うと英語で
チケットの値段のことを尋ねてくる。話をするとどうも彼等が
売ったチケットを私が買ったようだ。彼等一家はイタリアの
ベニスの側の小さな街から来たと言っていた。
お父さんは比較的大人しく、母娘の方が元気だ、特に娘の
方は近くに座っていた叔母さんに笑われるくらい熱狂的だった。
これはもうイタリアを応援するしかないだろう。
知っている選手も多いので感情移入に難くはない。
しかし、試合が始まってみるとイタリア代表の動きが良くない、
むしろチリの方が中盤での動き出しが早くこの試合に対する
意気込みが感じられる。
チリがやや優勢に試合を進めていたがカウンターからバッジォ
の溜息が出るほど芸術的なダイレクトパスがフリーのビエリに
渡り、シュートは私に近い方のゴールのネットを揺らし、
イタリアが先制した。しかしこのゴールは8割から9割は
バッジォのゴールと言って差し支えないだろう。
こういったそつの無さはイタリアらしいと思わせる展開である。
この一点でやや動きの良くなったイタリアだがチリも選手の
身体はイタリアの選手より小さいのだが接触プレーにも以外と
強さを見せショートパスを中心にほぼ互角に渡り合っている。
前情報により予想はしていたがチリのツートップ、サラスと
サモラーノの通称ZA-SAコンビが強力なのには驚いた。
二人ともスピードに溢れ、上背は無いのだがポジショニングと
タイミングの良さ、そして素晴らしいジャンプ力でイタリアの
屈強なストッパーコンビと互角以上に渡り合っている。
イタリアがやや優勢で1−0のまま前半も終わると思われたが
終了間際にそのサラスのヘディングによる同点ゴールが入って
しまった。このゴールは私の席からは反対側でしかも混戦だった
為に誰のゴールかは分かり難かったのだが、この時のチリ
サポーターのテンションは明らかにイタリアの先制ゴールの時の
それを上回っているものであった。
スタジアムの雰囲気が盛り上がるのは結構なのだがこの
ゴールのお陰で隣の一家、特に露骨にがっかりしていた娘さん
に声を掛け辛くなってしまったではないか。
しかし私のそんな心配をよそにハーフタイムには彼等は私に
飲み物を奢ってくれた。余りに高くチケットを買った私に気を
使ってくれたのか、それとも試合前の練習の時に双眼鏡を貸した
礼なのか聞くような事でも無いので有り難く頂いた。
後半開始間もなくしてまたしてもサラスの今度は何と逆転の
ヘディングシュートが決まってしまった。この時この日一番の
盛り上がりを見せたのは当然チリサポーターである。
沈黙するイタリアサポーター、隣の女の子は見ていて楽しく
なる程ころころと表情を変化させている。
しかし未だ時間はたっぷりある。イタリアの選手もサポーターも
比較的落ち着いてはいた。 が、チリのDF陣の出来が実に良く
イタリアの攻撃を押さえている。
残り時間も少なくなるにつれイタリアの攻撃も焦りを感じさせる
ロングボール使った単調な物へとなってきた、この頃になると
私もすっかる試合に入り込んで、溜息をついたり一寸したミスに
ブツブツ独り言を言うようになる。
キエーザとインザギというスピードコンビを投入してゴールを
狙いに来るがチリのDFは引いているのでスペースが無く
なかなか有効な攻撃にはならない。こういう場面ではパワー
ファイタービエリの方が有効なのではないかなとも思いこの
選手交代には疑問を感じてしまった。
そしてボールを奪うとチリの効果的なカウンターアタックが
仕掛けられる。人数は少なくてもツートップが強力なため何度も
隣の女の子に悲鳴を上げさせる。
私も一緒に肝を冷やしながらも「決定力のあるFWを擁するって
いうのは大きいんだなあ、日本にもこんなFWが居たら・・・」
等と改めて無い物ねだりをしてみたくなるのだった。
チリがDFラインでボール回しを始めると例の「オーレ!」の
かけ声が掛かりだす。
イタリアの焦りは更に大きくなってゆく。それに反比例して
得点の予感は少なくなってゆく。
残り時間も少なくなってくると諦めの早いイタリアサポーターが
席を立ちだした。それからすぐである、チリにとっては何とも
不運なハンドによるPKがとられたのは。
私の席からは遠いサイドであったがそのシーンはちゃんと見えて
いて思わず「ハンド!」と叫んでいた。バッジォの同点ゴールが
決まると私はまずほっとした。何故ならイタリアが負けた時、
隣の一家に何と声を掛けようか思い付かないでいたから・・・・
同点ゴールが決まると今度はイタリアの動きが良くなり猛攻を
仕掛ける。スタンドも「イタリア!イタリア!」の大合唱である。
間もなくタイムアップの笛が鳴り試合は2−2の引き分けに
終わった。
帰り際に隣の一家の写真を撮り[See you again at
next WORLD CUP in Japan!」と言って別れた。
が、名前と住所を聞いて写真を送れば良かったかなと
後悔したのは帰りのバスに乗ってからだった。
帰りのバスの中は引き分けという結果の為だろう。どっちの
サポーターも気勢を上げる様な事も無く静かな物だった。
こればかりは少し残念な気もした。
スタジアムからの帰りは臨時バスが駅まで出ていて、私の
泊まっているホテルは中心街より駅に近いので助かった。
バスを降りると見事な虹が出ていて好試合の余韻に花を
添えてくれた。
この辺で今日はお休みなさい。