フランスW杯観戦旅行記



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  • 6月16日(火)


    フランスのペルピニヤンという国境に近い街の名前が車内で
    放送された。私は「もう少し寝れるな」と思い、また眠りに
    就こうとした時、車掌にたたき起こされ列車から降ろされた。
    駅のホームを見るとどうやら列車の客は全員降ろされたようだ。
    どうやらストライキの為この先には行けないとの話である。

    私はその事実にうんざりしながら、もまた一つ話のネタが出来た
    等と呑気に考えていた。
    そして状況次第ではフランス国鉄のアバウトさの為に余っていた
    列車パスを使ってパリ等、予定外の地から帰国の途につくことも
    考えていたがそんな事は杞憂に終わった。
    国境を越えるシャトルバスが手配されるようだ。
    さすがスト慣れしていると感じさせる。
    それでもバスが来るまでの数時間はかなり退屈であった。

    バスに乗ってのピレネー越え、と言っても外れではあるが。
    列車に乗って寝たままでは決して見ることは出来なかったので
    災い転じて何とやら、早朝の国境越えをこの目で見ることが
    出来ました。

    シャトルバスはスペインの小さな駅で私を降ろし、そこからは
    ローカル列車でバルセロナまで何のトラブルも無く無事到着。
    スペイン入りしたらもっと風景は赤茶けた乾燥地のそれになるかと
    予想していたが以外と緑もあってちょっと拍子抜け。

    バルセロナ・サンツ駅の前は予想通りタクシー、バス乗り場以外は
    これといった物は無い。が、近代的なビルも少なくないのが
    今までとはちょっと違った印象を与える。
    この辺りでは別に観たい物も無いので地下鉄でカタルーニャ広場に
    行って、先ずは宿を探そう。
    今日一日しか無いが此処バルセロナは以前から来たかった場所
    なので早く荷物を預けて身軽になりたかったのだ。
    駅からすぐ側の安宿を見つけ、泊まりたい旨を告げると掃除のため
    一時間ほど待って欲しいと言う。

    荷物を預けて近くの市場を覗きに行く。一時間などあっという間
    だろう。腹も減っているので食事もしてこよう。
    市場に入ると野菜、果物、肉、魚と有りとあらゆる物がある。
    野菜や果物の中には日本では売っていないような物もあり、
    時間さえあれば買って、自分で調理してみたいがたった一日では
    どうしようもない。
    魚屋など氷を敷き詰めた上に色んな種類の魚が無造作に並べてあり
    日本に比べるとかなりアバウトである。
    それぞれ値段は書いてあるが、どの位の量での物なのか分からない
    ので安いのか高いのかてんで分からないが、売り子の勢いの良さは
    万国共通のようだ。
    そして、気の良さも。「オラ」と挨拶したらおばちゃんが
    サクランボを一掴みくれた。

    飯は市場の中で食うことにした。
    何を頼んで良いのか分からないので、「今朝バルセロナに着いた、
    これが最初の飯だ。今日一日しか居ないからバルセロナ・
    スペシャルで適当に宜しく」といった様な事を言って見繕って貰い
    ビールと一緒に食った。イカのフライとかマリネみたいな物とか
    豆を煮た物をフランスパンと一緒に食ったがなかなか美味かった。
    ちょっと脂っこかったが何より量が多く安かった。上記のような
    食事で日本円で700円位か。

    腹一杯でホテルに戻ると部屋は用意できていた。
    何だか迷子になりそうなホテルだったが窓の外の風景は生活感が
    あり、私好みである。
    部屋は狭いが清潔でベッドも悪くない。
    荷物を置いて早速サグラダ・ファミリアに向かうことにした。

    この旅行で一番の観光地であろう。
    天気は快晴でとにかく暑い!地下鉄駅からの歩きが面倒になる
    程であったがとにかく入場料を払って中に入る。
    中は冷房が効いているのか、それとも石造りの為か涼しく
    快適である。土産物が売っているがあまり食指をそそられる物は
    無い。元々そういった類の物は買わない質なのだ。

    しかし、博物館はなかなか見応えがある。建物のミニチュアは
    勿論、ガウディ直筆のスケッチ等飽きる事は無い。
    一通り見終わって、本日のメインエベントとも言える塔に上る
    という作業に掛かろう。
    昨日、マルセイユで出会ったアベックの女性に是非とも上る
    べきだ。と力説されてしまったのだ。
    ちなみに彼女はスペインかぶれで、中でもバルセロナ好きだと
    言っていた。
    しかし、何と上りの階段は入り口が封鎖されていた。
    そこで仕方なく有料のエレベーターに乗って上った。
    上から見た景色は確かに素晴らしい!
    が、その窓はほぼ真下を見ることさえ出来、またその微妙な
    隙間は私の身体ならすり抜けることが出来そうな・・・
    そう、墜落することも十分に可能なのである。
    ここ暫く顔を覗かせることの無かった高所恐怖症がホンの僅か
    ながらも顔を覗かせるには充分だった。
    塔の上をうろうろしているとどうも歩いて降りることが出来
    そうだ。登る時は心ならずもエレベーターを使う羽目になって
    しまったので、下る時ぐらいは歩いて降りよう。

    が、これが間違いの元であった。
    幅の狭い螺旋階段は真ん中にちょうど人が一人墜落する事が
    出来る程度の穴が通じているのだ。
    当然手すりなんて気の利いた物は無い!
    その階段は私に高所恐怖症を完全に蘇らせてくれた。
    背中にはたっぷりと汗をかき、平衡感覚は頼りなく膝は
    がくがくでいわゆる”腰が抜けた”状態で、壁に張り付く
    ようにそろそろと降りる。
    さっさと降りてしまった方が良いのは分かっているのだが
    恐怖に足が竦んでしまっているのだ。
    泣いて許して貰えるのなら、恥も外聞も無く大声で泣き喚いた
    だろう。 そのぐらい恐かったのだ。
    どんなにゆっくりででも下っていればいつかは下に辿り着く
    と心に言い聞かせて下った。
    不幸中の幸いだったのは前からも後ろからも人が来なかった
    のですれ違うことが無かったことだった。
    一応すれ違うスペースというのは設けられているのだが
    この時の私にとっては単なる気休めにしか過ぎない。
    下に辿り着いた私は缶コーラで祝杯を挙げた。
    恐怖で喉はカラカラだったのでホッとしたこともあり実に
    しみる美味さだった。
    ちなみに階段の下の出口は封鎖されていると思っていた
    鉄格子の扉だった。

    コーラを飲み、一息ついたところで先程登った塔とは反対側の
    塔の下に来た。
    何とこちらの階段は封鎖されてはいなく、歩いて登れるのだ。
    喉元過ぎれば何とやら、つい先程の恐怖も忘れて「今度こそ」
    とばかりに登り始めたのだ。
    が、暫く登ると階段を下りてきた人とすれ違い、その時先程の
    恐怖が蘇って来た。
    「あかん、止めよ」根性無しの私はあえなくギブアップした
    のでした。

    教会を出ると昨夜マルセイユで会ったムカつく一団と会ったが
    軽く会釈をした程度で話はしなかった。
    みんな考える事は一緒なんだな。

    次はこのバルセロナに来たら是非とも行きたかった私が
    スペインで最も好きなサッカーチームF・Cバルセロナの本拠地
    ノウ・カンプ・スタジアムである。
    地下鉄の駅からは結構歩く羽目になったが歩いただけのことは
    あった。
    サッカー博物館なんて物もあり、そこではF・Cバルセロナの
    栄光の歴史を展示してあったがそんな物は単なるおまけにしか
    思えない程このスタジアムは素晴らしかった。
    10万人以上収容できる観客席はグラウンドに近く、さすが
    サッカー先進国と納得させられてしまった。
    こんなスタジアムが日本にも出来たらなーと思わずには
    おれないものです。
    今度は是非ともここで我が愛するF・Cバルセロナの試合を観たい
    ものです。

    適当な時間になったので一度ホテルに戻り、土産を買ったりと
    カタルーニャ広場周辺を散策することにした。
    さすがに夕方ともなると人出は更に増し、フラメンコを踊る
    女性等、大道芸人があちこちに見掛けられる。
    似顔絵等絵を売る者も結構居る。
    そんな中の一人が私に声を掛けてきた。
    曰く「金は要らないから描かせてくれ、デモンストレーションに
    協力してくれ」との事。
    彼の絵はなかなかクセの強いデフォルメをした似顔絵である。
    こんな機会は珍しいので二つ返事でOKした。
    話をしながら似顔絵を描いて貰う。
    偶然というか何と言うか彼はスイス人の漫画家だったのだ。
    私は日本で漫画を描いていると言うと、彼は「MANGA?」と
    どうやら日本の漫画はcartoonでは無くMANGAと独自の物として
    認知されているようだ。
    だが彼は「MANGAはあのでかい目が好きじゃ無い。」と。
    まあ、分からなくも無い。「でも、あのスピード感は参考に
    なる」とも言っていた。
    そんな話をしながら似顔絵を描いていると周りに人だかりが
    出来てきた。
    彼はもの凄いスピードで鉛筆を走らせ、完成が近付いてくると
    口数も少なくなり、その表情も集中した物となってくる。
    野次馬が彼の絵と私の顔を交互に見て感心したりニヤニヤ
    したりする。どんな絵が描かれているのだろう?

    暫くして絵は完成した。
    見せてくれたその絵は嫌味なまでに私の特徴を捉え、デフォルメ
    された見事な物であった。
    まさにプロの技であった。
    この絵なら是非とも買いたいと思った私の心を見透かしたように
    彼は「君はこの絵を買うことは出来ない、これは私の
    コレクションだからね。 協力してくれて有り難う」と先手を
    打たれてしまった。
    彼と別れるともういい時間になっていたので夕飯を食う場所を
    探した。
    昨日のマルセイユではブイヤベースを食い損ねたので今日は
    何としてでもパエリアを食ってやろうと。
    ホテルに近いレストランでパエリアと書いてある店があったので
    取り敢えずそこに入って椅子に座った。
    ボーイが来たので英語のメニューはあるかと聞いたらそれだけは
    通じたが彼は英語が分からない様だ。
    メニューを見て「パエリアをくれ」と言ったが「パエリアじゃ
    分からない」という様な事を言う。
    スペイン語なので朧気にしか分からない。
    どうやらこのメニューにあるパエラというのがそれらしい。
    種類が幾つかあるがシーフードを沢山使っていると思われる
    「フィッシャーマン」というのを頼んだ。
    料理を作っている間に近くの売店でスポーツ紙を買ってきて
    ビールを飲みながら読んだ。
    文章は分からないがW杯の記事や、二輪のWGPのリザルト等
    固有名詞を拾って見てるだけでもなかなか楽しい。
    出来てきたパエリアは予想通りシーフードたっぷりで量はもう
    日本なら間違いなく「大盛り」と注文しなければ出て来ない様な
    量である。
    味の方は最高に美味かったので何とか食べ切れたが最後の方は
    休み休みやっと詰め込んだといった感じだった。

    明日は早いのでホテルに帰ると荷物を整えてシャワーを浴びて
    すぐに寝た。
    ここ3日ほど夜行列車の中でしか睡眠を取っていなかった
    上にスト騒ぎで睡眠を妨げられた等疲れが溜まっていたせいか
    電気を消したとたんに気絶した。  


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