フランスW杯観戦旅行記



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  • 98年6月13日(土)

    今日はこのボルドーと別れを告げ、昼間はサッカー観戦、夜は
    移動。 そう、夜行列車での3連泊という嵐の強行日程の
    始まりの日なのだ。
    朝5時に起きるがサマータイムの為未だ外は暗い。
    ホテルの太った御主人に礼と別れを告げ駅に向かう。
    正直居心地の良いこの街にはもう少しゆっくりと
    滞在したかった。

    駅について暫くすると列車は来た。今まで乗ったのがタリス、
    TGVと日本で言えば新幹線のような列車ばかりだったので
    ちょっと新鮮だ。
    それに今までになく空いている。未だ時間が早いからだろう。
    座席に着くと隣の席に居たのは何と日本人だった。
    しかも一昨日の試合から明日の日本vsアルゼンチン決戦まで
    同じ日程だという、やはり同じ様な事を考える人は居るの
    だなあ。そして彼はフリーのライターだという。同じフリーの
    立場、そして何よりサッカー好きということで話は大いに盛り
    上がった。

    現在の日本代表の問題点、更に大きな問題を抱える協会。
    代表の贔屓選手、有望な若手、高校サッカー、過去の好試合
    の話等尽きる事は無い。やや私より年下だが日本では元々
    少ない情報を貪るように見てきたファン同士である。
    テレビ東京系でやっていたダイヤモンドサッカーの同じ試合の
    同じ選手に感銘を受けていたりしてなかなか面白い。
    彼は過去にもサッカー観戦に欧州に訪れたことがありその
    話もまた興味深く聞かせて貰った。
    そして何より興味深かったのが二人に共通した目標が
    Numberとサッカーダイジェストへの掲載であったことだ。

    気が付くと今日の観戦地ナントに着いていた。
    話に夢中で本当にあっという間の5時間であった。
    駅で荷物預かり所の列でまた、二人組の日本人と出会う。
    列車で知り合った人もこの2人組の中の1人もバックパックの
    旅行しかも欧州サッカー観戦に慣れていると言う。
    何とも心強い連れである。
    以降2日間この4人で行動を取ることになる。

    駅前広場ではナイジェリアのサポ−ターが楽器を打ち鳴らし、
    踊り、歌いながら陽気に行進している。
    対戦相手のスペインのサポーターは駅前で目立った所は無い。
    先日のイタリアもそうだが経験豊富な強豪のサポーターよりは
    むしろアウトサイダー(ナイジェリアの場合そうとも言い切れ
    ないが)の方が駅前や中心街ではパワフルである。やはり出場
    出来ただけでも嬉しいというのがあるのだろう。

    軽く飯を食ってからトラム(路上電車みたいな物)に乗って
    競技場に着くとここでもやはりナイジェリアのサポーターが
    元気だ。
    私はこの旅行で日本戦は勿論だが最も見たかったカードがこの
    スペインvsナイジェリア戦なのだどちらも強豪でこの一次
    リーグの中でも屈指の好カードと言えよう。
    チケットの獲得は結構困難を予想されたが取り敢えず4人で
    メインゲート近くでダフ屋と交渉してみる。一枚900フラン
    位で話がまとまりそうだ。まあ、カードを考えると悪くない値段
    だろう。と、我々の後ろから何やら日本人が声を掛けてくる。
    「何だよこのチケットは俺達のだぞ」とか思っていると彼は思い
    掛けない事を言い出した。「もっと安く譲るからこっちに来い」
    と言うのだ。奴らにチケットを売っているところを見られたら
    やばいと言って少し離れた所に行って(と言っても5〜6mしか
    離れていない売店の裏)で彼はチケットの束を見せてくれた。
    何なんだこの束は?とかなり疑問を抱かせたが、そんな事は
    この際不問だろう。
    結局定価350フランの席を800フランで買えたので良しとしよう
    しかも4人並びの席で買えたのは予想外の収穫であった。

    競技場の中に入るとその競技場”ラ・ボージョワール”の素晴
    らしさに感動した。我々の席もまた予想外に良かったが兎に角
    ピッチが近く客席を覆う綺麗な屋根とスペースをちゃんととって
    ある席はさすが本場と思わせずにはいられないものであった。
    私はこの旅行で4試合を4つの競技場で観たが、この競技場
    こそが一番良かった。

    暫くすると選手達の練習が始まった。私達の席に近いサイドで
    練習していたのはナイジェリアである。とにかくでかい!
    そしてボールタッチが柔らかい。練習を見ただけでも日本の選手
    では絶対に勝て無さそうであるのが悲しいところだ。
    遠くに見えるスペインの選手もまた意外とごつい身体をしている
    そして何より落ち着いたオーラを出しているのが印象的だ。
    競技場の外ではあんなに元気だったナイジェリアのサポーター
    も実はそんなに数が居なかったのが競技場に入って初めて
    分かった。でも元気ではある。

    いざ試合が始まると以外と両チームとも静かな立ち上がりだ。
    ナイジェリアあたりが立ち上がりからガンガン攻めていくのかと
    思ったがそうでも無い。スペインがややパスワークで優位に
    立つ。時折気の利いた動きでチャンスを作り出す。やはり
    スペインの方が役者は上と思わせる。
    そして先制点はやはりスペインに生まれる。
    イエロが我々の席に近い方のゴールに強力なFKを直接叩き
    込んだのだ。
    これで一時スペインの動きが活性化されたがすぐに
    ナイジェリアが同点ゴールをたたき込み後半に望みを繋げる。
    前半を見た限りではスペインの試合巧者ぶりが目に付き、
    ナイジェリアは以外と組織でもまとまっている様に見えた。
    が、アトランタオリンピックで見せた奔放な、それでいて
    迫力のある突進はちょっと物足りなかった。 確かに力強さは
    在るのだが・・・

    後半に入るとすぐにラウールの芸術的なゴールが生まれ、
    スペインが再びリード。再びスペインが試合の流れを掴む。
    イエロ擁するスペインの堅守を考えるとこれで決まりかなと
    思われたが後半も20分を過ぎた辺りからナイジェリアの
    動きが良くなってきた。と言うよりスペインの足が止まって
    きた。もうこうなるとナイジェリアはやりたい放題である
    次から次へとオーバーラップをし、スペインのディフェンス
    ラインを切り裂いて行く。同点、そして逆転は時間の問題に
    思われ、果たしてその通りになった。決して怯むことの無い
    その魅力的な攻撃サッカーに会場全体もナイジェリアコールに
    包まれる。それはスペインサポーターをも巻き込んで・・・

    好試合を観た後のふわふわとした高揚感はいつも良い物だ。
    この為にサッカーファンを続けているのかも知れない。
    そして勝ったナイジェリアサポーターのはしゃぎっぷりは実に
    気持ちがいい。
    出来る事なら明日の日本vsアルゼンチン戦の後、我々も
    こうしてはしゃいでいたいものだ。

    試合後の食事は駅からそう離れていない所でテレビの見れる
    レストランにした。
    先ずワインと此処、ナントの名物でもある生牡蛎を頼む。
    サイズは以外と大きめで食べ方は日本と同じでレモンを
    掛けて食べる。美味い!皿の上に乗っていた良く分からない
    飾りの海草を食べてみると味は全然無いのだがコリコリ
    とした歯触りは悪くない。調子に乗って食べているとそれを
    見たウェイターは驚いてそれは食う物では無いと言う。
    顔にブツブツが出来るぞと冗談で脅す。
    まあ、そんな物は食べなくても美味い物なら沢山ある。
    他にも色々頼んでワインも色々と飲むと疲れが出たのか
    テレビを見ながらウトウトしてしまっていたらしい。
    丁度やっていたオランダvsベルギー戦のクライファートの
    退場シーンを見損ねてしまった。

    たっぷりと美味いワインと食事を楽しんだ頃、夜行列車の
    発車の時間となった。我々4人は明日の決戦に控え、
    それぞれのコンパートメントに別れ休息をとった。

    この時はまだ明日我が身に起こる事を予想だにして
    いなかったのは言うまでもない。  


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